●夢が実現する商店街
「わたし、雁道が大好きなんです」
まるで昭和の時代にタイムスリップしたような雁道商店街。多くの商店街がそうであるように、およそ120店あった店舗数も昭和30年代をピークに年々減少し、現在はその半数の53店舗。商店主と住人の高齢化でシャッターを閉めた店が目につく商店街である。
♪雁道ブラブラ歩いてみたら 何かいいことありそうな
八百屋のおばさん こんにちは 10歩歩けば喫茶店
今日はどこでお茶しましょ♪
どこに行っても誰と会っても、陽気に雁ぶらソングを唄って踊る、吉川冨士子さん。この雁道商店街に再び賑わいを戻そうと東奔西走している。
「わたしが初めて雁道に来たとき、あまりに人がいなくて驚いたの。でも、しばらくして、わかったんです。人はいるんです。店の奥で女性が介護をしていたのです」
吉川さんは9年前から家に引きこもりがちなお年寄りたちが楽しめる場をつくろうと自宅で「瑞穂デイセンターえんがわ」を運営している。宅老所、工房、書道教室、おもちゃ図書館、囲碁や麻雀、カラオケなど、お年寄りたちが集うオアシスのような“えんがわ”が雁道商店街にもあったらいいのにと思い始めていたとき、起業支援ネットと出会った。
「地域通貨の仲間から、雁道でワークショップをしているという話を聞いて、途中参加したんです。そこからは、どんどん話が進んで、目の回るような1年でした」
どうしたら商店街が活性化するか、吉川さんは“えんがわ”でやっていることを次々に提案した。1人ではできないことも、会う人会う人に声をかけ協力を求めた。
「最初は首を縦に振らなかった商店街の理事長さんでしたが、ふれ愛センターを貸すからいっぺん好きなことやってごらんと言ってくださったのです」
2004年2月、工房えんがわの仲間や、瑞穂区で高齢者支援をしているNPO「すけっとファミリー」、市の福祉リハビリセンターなどさまざまなグループが集まり、えんがわフェアin雁道を開催した。イベントは大成功を収め、商店街からの信頼を得た。
このイベントを通じて出会った仲間で「雁ぶら物語」の実行委員会が結成され、事業化に向けての取り組みが始まった。
そして7月4日、商店街の空き店舗を活用して、誰もが店のオーナーになれる「雁ぶらショップ」と、日替わりでさまざまな教室や会合が開かれる「雁ぶらサロン」をオープン。バリアフリーの店内や車椅子の人でも利用しやすい広いトイレは吉川さんがどうしても実現したかったこだわりの1つだ。
「商店街を活性化しながら、それぞれの夢を実現させる場所ができました」
●あなたの街にも“えんがわ”を
吉川さんは10年前に義母がうつ病になったのをきっかけに自宅で「瑞穂デイセンターえんがわ」を始めた。当時は介護保険もなく、今のようにお年寄りを世話する施設やサービスはほとんどなかった。
「天白区の診療所へ送迎バスで通っていたのですが、ある日、おばあちゃんが行きたくないと言い始めたんです」
10分で行けるところを巡回するので1時間近くかかってしまうため、疲れてしまうのだという。しかし地元にはそういうところが1つもなかった。区役所や社会福祉協議会、社会福祉会館、保健所、市会議員、市役所など聞いて回っても、皆口を揃えて「瑞穂区は土地がないから作れない」のだという。
「県大(愛知県立大学)が移転してその土地をどうしようかっていっていた時期だったんですが、あれは県の土地であって市の土地ではないっていうのよ」
ちょうど自宅を立て替える予定だったため、ないんだったら自分が作るしかない、吉川さんは義母のために自宅の一部をデイセンターにした。介護をしながら、講演会の企画や介護の勉強会など、忙しい日々を送っていたころ、家族の中でも問題が起きていた。
「息子が学校にも行かず家に帰って来なくなり、夜な夜な警察から呼ばれる日々でした。最初は近くだったんですが、だんだん長野とか遠くなって…。おばあちゃんは病気でもあったので、中川区の老人保健施設に結局9ケ月間お願いしたんです」
ところが、ある日医師から呼ばれ、義母が胆嚢癌であることを知った。
「おばあちゃんのために頑張ってきたのに、やっとの思いで“えんがわ”を作ったのに、肝心のおばあちゃんが帰って来られないなんて…。真っ白になりました」
とても“えんがわ”を続ける気にはなれなかった。そんなとき、仲間の1人が「これはもう社会的事業であってあなただけの事業じゃない」と言った。しばらく“えんがわ”を仲間に任せて義母の介護に専念した。最期を看取ったあと、吉川さんは“えんがわ”を続けるか迷った。しかし、新しい仲間から、「今まではお母さんのためだったけれど今度は自分のため、地域のために続けましょう」と、運営のしくみを変える提案をしてくれた。工房を作ったり、ボランティアに200円の時給を出すようにしたところ、事業が安定。家族で楽しめるえんがわフェアを年2回、企画をしているうちに、工房の仲間はお店を持ちたいとか、吉川さんも地域のあちこちに“えんがわ”があったらいいのに、と思うようになってきた。
「お年寄りが楽しめる場があれば、その間、介護する女性たちは自分の時間を持つことができるんです」
●あなたも雁ぶらしませんか
誰でも店のオーナーになれる「雁ぶらショップ」では、細かく区切られたブース1つ1つが店舗で、手芸品や木工品、雑貨など出店者たちが自分たちの作品を展示・販売している。一方、「雁ぶらサロン」ではすけっとファミリーによるデイサービスや“すけっと茶論”、囲碁や麻雀同好会、歌声喫茶などの日替わり企画のほか、教室や会合に時間貸ししている。また、毎週金曜日はコミュニティレストランがオープンし、ワンデイシェフ(日替わりシェフ)がランチを提供。シェフの加藤晴美さんは、隔週で薬膳ランチを作りながら、第2・4火曜にサロンで歌声喫茶も主催。NPOドリームの府川さんは、脳梗塞などの障害をお持ちの方の家族や、喫茶ドリームのボランティアの会合、交流の場として利用している。
「昔、雁ぶらという言葉があったそうです。銀ぶらがあったように雁ぶらが。そして、雁道商店街さんが、『雁ぶら物語』という文集を作られたので、わたしたちはそこから名前をいただきました」
高齢者も障害ある人も若者も、誰もがぶらりと遊びに来て1日楽しめる場所をつくりたい、というのが実行委員の思いだ。地域の住人だけでなく、他の地域から多くの人が訪れることで街は活性化する。交通の便がいいとはいえないが、だからこそ、人々の生活が感じられる懐かしい商店街の雰囲気が残っている。
「古い昔の道具などを集めたレトロ館をぜひ作りたい。そこにおじいちゃんとかおばあちゃんにいてもらって、懐かしいものを見ながら昔のことを話してもらうの。それから、リサイクルショップ。使えるものは再利用してほしいですから」
“雁ぶらが楽しくなる街づくり”を目指し、吉川さんは今年、万博会場で雁ぶらソングを仲間と披露する。
取材・文/ほしかずみ 写
真/河内裕子(写真工房ゆう)
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