●半歩先ゆく名古屋商法の仕掛け人
今、“名古屋ブーム”と言われている。愛知万博、中部国際空港と大型のプロジェクトが実施され、名古屋の食べ物やファッションまでもがマスコミを賑わす中、ビジネスの世界ではあるメールマガジンが大きな反響を呼んでいる。そのメールマガジンとは『007名古屋商法』。名古屋を中心に活躍する9人のコンサルタントが自らの経営ノウハウやビジネスヒントを公開したものだ。読者は4000人を超え、1月にはメールマガジンのコラムをまとめた『最強の名古屋商法』(007名古屋商法著/アーク出版)が出版された。
その執筆者の1人でもあり、事務局を担当しているのが、有限会社ゼネットの岩佐卓さん。住宅リフォームや理美容業界を中心としたコンサルタントや新規事業立ち上げのアドバイザーとして活躍している。
「名古屋ブームが来る、という予測はしていました。メールマガジンとしては後発でしたから、何か特徴がなければ読んでもらえませんよね。それでタイトルに“名古屋”とつけたんです」
狙いは当たった。しかし、その名古屋ブームもいつまで続くのだろうか。
「万博が終わったら名古屋といえども不景気になる。そのときこそ、起業家の出番、ですよね」
●“競争しない”という選択
岩佐さんは大学進学を機に名古屋へやってきた。大学時代は当時流行りはじめていた“ねるとんパーティ”の企画に明け暮れる毎日だった。
「ほとんどサークル活動のために大学に行ってた。典型的な勉強しない大学生でしたね」
専攻は農学部だった。選んだ理由は?と尋ねると
「みんな工学部や理学部に行きたがるでしょ?農学部だったら競争しなくても行けるかな、と思って。ほとんど何も考えずに選んじゃったんですよ」
と本人は言うが、人が選ばない方面に自然と足が向いてしまったというその選択は、その後の岩佐さんのビジネスの在り方、マーケットでチャンスを見つけるセンスの原点なのかもしれない。
大学卒業後は、企業研修を企画する会社に就職。同級生が公務員や食品会社などに就職する中、この選択も異色だった。
「ここでも競争したくないと思ってね」
と笑う。そこで、顧客の困りごとを見つけて解決するための提案方法と、相手と信頼関係を積み重ねることの基本を学んだ。
「30歳を目処に独立するぞ、という想いははじめからありました。だから、就職は勉強のためにしたんです。ただ、大きな会社を相手にすることが多かったから、自分の提案した研修を採用してくれても、その会社がすぐに変わるわけじゃない。そういう歯がゆさはありましたね」
その後、知人が経営コンサルタント会社を立ち上げることになり、ヘッドハンティングされた。
「経営というものを間近で見ることが将来役に立つと思ったし、上手くいけば一緒にその会社を大きくしていくのも面白いかな、と思って。結局社長と意見が合わずに4年でやめてしまったんですけど」
●“心の旅”時代にみつけた自分のスタイル
その後、岩佐さんは3年ほど、アルバイトをしながら、そのときそのときに面白いと思ったことや、出会った人との縁をイベントなどの形にする試みが続いた。それは“心の旅”ともいうべき時間だったという。
そんな中、あるとき知人の勧めで、環境問題に取り組む地球村ネットワークの高木善之氏の講演を聴いた。
「この人の話はいける!と直感しました。話の内容はとても面白い。でも、世の中にはまだ知らない人がたくさんいる、だったら教えてあげたい、と」
そこで名古屋で高木氏の講演会を企画した。
「起業支援ネットの関戸さんに出会ったのもこの時期です。チケットを売りたくて、人の紹介で関戸さんに会ったんです。初対面の僕からチケットを10枚も買ってくれて、『世の中にはこんな人もいるんだ』と驚きましたね(笑)。僕自身は特に環境問題に熱心に取り組んでいるわけではない。だけど、そもそも環境を悪くしたいと思っている人なんていないのに、でもできなくて、みんな困ってるわけですよね。だから、みんなに一斉に環境をよくしましょうと呼びかけるよりも、関心がある人に必要な情報を届けることのほうが大事なんじゃないかと思ったんです」
●出会いを求める旅は終わらない
平成12年、それまで培ってきた縁の中からいくつかの仕事が生まれたことを機に、有限会社ゼネットを設立した。幅広い情報やデータを駆使してのコンサルティング、特に広告戦略立案には定評がある。ただ、数字やデータの奥にあるのは、あくまでも岩佐さんの直感、眼力だ。 岩佐さんは人と出会うと無意識のうちに、その人の将来の姿を思い描くという。
「テレビに出ている無名のタレントを見て、あ、このコはこれからブレイクしそうだな、とかって想像するの、楽しいですよね?それと同じです」
岩佐さんからは、相手を動かそうとする圧迫感がまったく感じられない。顧客の熱い想いに、同じ熱さで応えるのではなく、風のようにふわりと顧客を目的地まで運ぶのが岩佐流なのかもしれない。データやマーケティングは、そのための“使い勝手のよい道具”だ。
「好きなことをやっていたら儲かりませんよ」
とドライな台詞を吐く一方で、自分自身は“好きなこと”を求め続け、やり続けている。
「だから儲からない(笑)」
直感とデータ。行動力と冷静さ。ドライさと人情味。そして聖なるものと俗なるもの。岩佐さんの中にはいくつものアンビバレントな要素が仲良く同居しているように見える。だからこそ、なのだろうか。そのまなざしはまっすぐで、優しい。
「結局人ってみんな同じですよ。何が偉くてなにが駄目なんて他人がとやかくいえるわけがない。だから出会いは大事にしたい。僕も人と出会うことでしか自分自身は変われないと思ってます」
と語る岩佐さん。社名「ゼネット」には「ゼロから創るネットワーク」という願いが込められている。
「学生時代、研究室のパソコンを使って、ねるとんパーティの企画書をつくっていて先生に叱られた。懲りずにコピー機を使ってまた叱られた。でも、最近名古屋商法が採り上げられたテレビを見た先生が連絡をくれ『頑張ってるんだな』と言ってくれた。嬉しかった。」
岩佐さんの屈託のなさ、気負いのなさ、構えのなさ・・・それが出会いを紡ぎ続けていく。
競争して勝つことよりも、自分の好きなことに身を預け、人との出会いにたゆたってきた遊び心といたずら心。岩佐さんは遊牧の民のように、心地よい風を求めて今日も歩き続けている。
取材・文/久野美奈子 写真/河内裕子(写真工房ゆう)
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